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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(あ)2041号 決定 1977年3月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人西本克命の上告趣意第一点は、憲法一三条、一四条、三一条違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であり、同第一点の二は、憲法一三条、一四条違反をいうが、原判決は、被告人が懲役刑の言渡を受けたという事実を量刑判断の一資料としたにすぎず、右事実をもって直ちに被告人に対し不利益な差別的処遇をしたものではないから、所論は前提を欠き、同第二点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお記録によると、被告人は、昭和三九年一月一四日恐喝、同未遂罪により懲役二年に処せられ(同月二九日確定)、昭和四〇年一〇月一七日右刑の執行を受け終わったものであるところ、昭和四四年八月二七日船舶職員法違反罪により罰金七〇〇〇円に処せられ(同年九月二三日確定)、同月二四日右罰金を完納したが、その後は罰金以上の刑に処せられたことがないことが明らかである。右事実によると、右罰金刑の言渡は、刑法三四条ノ二第一項後段の規定により、昭和四九年九月二四日その効力を失ったことが明らかであり、このように、懲役刑の執行を終ってから一〇年を経過しない間に罰金刑の言渡が失効した場合には、その後の同項前段の適用に際しては、「罰金以上ノ刑」に処せられることがなかったものと解するのが相当であるから、被告人に対する右懲役刑の言渡は、その執行終了後一〇年を経過した時に効力を失ったものというべきである。そうだとすると、右懲役刑の言渡は未だその効力が消滅していないとした原審の判断は、刑法三四条ノ二第一項の解釈を誤ったものといわざるをえない。しかしながら、原判決は、被告人が過去において刑の言渡を受けたという事実そのものを量刑判断の一資料としたものにすぎないことが判文上明らかであるから、右違法は、判決に影響を及ぼさない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 団藤重光)

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